黄金の1920年代

 「黄金の○○年代」良く聞くフレーズです。
 私の場合は「黄金の1920年代」です。
 第1次世界大戦が終わり、平和な時代がおとずれた1920年代。
 エロ・グロ・ナンセンスが世界中を席巻した時代。
 「褐色の恋人」ジョセフィンヌ・ベーカーが踊り、禁酒法がアメリカの闇を育てた時代。
 1929年の世界大恐慌が始まるまでが20世紀の青春時代と言ってもいいでしょう。

 まずは総論を記した本から紹介しましょう。
『現代思想臨時増刊・総特集=1920年代の光と影‐パリ、ウィーンそして東京 芸術のムーヴメントからファッションの流行まで』青土社
 1979年初版の少し古い本ですが、しっかりとまとめられている本です。
 ファッション・映画・演劇・思想・女性など、そしてパリ・ウィーン・東京の地域別の種々のムーブメントが図版多数で、まとめられています。特に種々のポスターは、とってもいい感じです。この本を読めば1920年代の、おおまかな輪郭がわかるでしょう。
 基本的資料としては十分です。

『サントリーミュージアム天保山開館記念 20世紀の青春時代展‐僕たちの生活のルーツが知りたい』
 天保山ミュージアム開館記念に行われた展覧会の図録です。
 「世界を激変させたメディア」「量産がはこんだ現代生活」「大都会の出現」の3項目に分かれて展示されていた印象的な展覧会の図録です。
 ラジオ・蓄音機・カメラの普及・ロシア構成主義・アールデコ・バウハウス・プラスティックエイジ(本格的にプラスティックが使われだしたのはこの時代です)・家電(掃除機・トースター・洗濯機)・ファッション・ツーリズム・量産車・自動車レース・超高層ビル・映画(ミッキーマウスは1928年「蒸気船ウイリー」で初登場)・スポーツ・・・これが20年代だ!的展示でした。
 私が特に心を惹かれたのは、それぞれのポスターたちです。そろいもそろって、かっこいい!!

『芸術新潮1988年4月号特集・世界が恋する1920年代』新潮社
 芸術の目で見た1920年代。ニューヨーク・ベルリン・パリ・東京・モスクワの都市別20年代観。
 この本で一番好きなのはベルリン。第一次世界大戦後の苛烈なインフレの中で育った文化芸術たちに惹かれるのです。
(何しろ1ドル=4兆2000万マルクまでインフレしたのですから。煙草1箱買うのに札束を抱えて買い物にの世界ですから)
 その中でダダイズムとバウハウスが生まれ、ベルリンは退廃の快楽都市になったのです。映画
「嘆きの天使」「会議は踊る」「メトロポリス」などドイツ映画が全盛を迎えたのも、この時代です。
 他の都市についても、簡潔でいい説明がついている、良い特集です。

『アール・デコの世界1パリ‐アール・デコ誕生』佐野敬彦編 学研
 アール・デコ発祥の地パリでの1920〜30年代の文化の総集編。
 エレガンスの終着からモダンの幕開け、そしてパリ・モードの開花まで図版多数で紹介されています。
 とにかく美しいの一言。特にポスター芸術と身近な品物の美しさには目を奪われます。
 さすが、発祥の地と言った感じです。

『アール・デコの世界2ニューヨーク‐摩天楼のアール・デコ』海野弘/中子真治編 学研
 1920年代最も繁栄した都市ニューヨークの文化。
 まさに摩天楼の世界。そしてアメリカン・ポップ・アート、アメリカン・カー・グラフィック・・・。
 ニューヨークのアール・デコの魅力は摩天楼のビルディングでしょう(ビルヂングと言った方が似合うかも)。
 それが、今でも残っているのがニューヨークの幸福でしょう。

『アール・デコの世界3マイアミ/ハリウッド‐アメリカン・デコの楽園』中子真治/海野弘編 学研
 少し遅れてきたアール・デコ、それがアメリカン・デコ。
 アメリカ西海岸に花開いた文化。
 ここで花開いたのは身近な製品と車たち。今、見ても斬新ですっきりしたデザイン達。
 もちろん建築も残っています。

『アール・デコの世界4ミラノ‐イタリアン・デザインの創造』佐野敬彦編 学研
 デザインの国イタリアのアール・デコ。未来派とよばれるイメージ
 他の国のアール・デコとは一線を画したデザインがイタリアらしいところでしょう。
 そして、ファッションに与えた影響も大きいでしょう。
 他にも家具なんてかっこいいです。

『アール・デコの世界5ウィーン‐世紀末都市のアール・デコ』千足伸行編 学研
 ウィーンも独自の空気を持ったアール・デコを醸し出した。
 特に家具や食器、そしてポスターたち。
 すこしだけ、アール・ヌーボーの気配を残したデザインがなんとも言えません。
 まさに世紀末都市ウィーンの真骨頂でしょう。

それでは各論に、まいりましょう。

まずは1920年代のアメリカから
『Visions of Tomorrow:New York and American Industrialization in the 1920s−1930s 「アメリカの時代」展パンフレット』大丸ミュージアム梅田
 20世紀のアメリカの最初に輝いていた時代、それが1920年代です。
 その20年代を取り上げた展覧会の図録がこの本です。
 ニューヨークの摩天楼・マシンエイジ・ニューヨーカーの日常生活・ニューヨーク万国博覧会、いずれも20年代アメリカの光の部分(一部は闇)を取り上げたのが、この展覧会です。
 特に摩天楼・数多くの巨大橋・数々の機械・流線型・「アール・デコ」スタイルが当時の芸術・日常生活・ファッションに影響を与えたか、良く判る図録です(半分ぐらいは30年代にもはいっていますが)
 個人的には「橋」を描いた絵と流線型スタイルの乗り物の数々が気に入っています。
 部屋には、その展覧会で買った「橋」の絵のポスターを額(安物)に入れて飾っているくらいですから。

それでは、そのアメリカの内実を描いたノンフィクションを紹介しましょう。
『オンリー・イエスタデイ‐1920年代・アメリカ』F・L・アレン著 藤久ミネ訳 ちくま文庫
 堅めのノンフィクションです。と言っても専門書ではないので読みにくいわけではありません。
 車ブーム・不動産ブーム・株ブーム・スキャンダルジャーナリズム・広告の隆盛・スポーツの発達・女性解放・禁酒法・赤(共産主義)への恐怖・そして1929年暗黒の金曜日・そして後日談が語られています。
 アメリカのバブルと崩壊の10年と言っていいでしょう。アメリカ20年代史の絶好の入門書です。
 また、この本が書かれたのが1931年なので、まだ1920年代の生々しさが伝わってくる一冊でもあります。
 (01.04.20改訂)
『シンス・イエスタディ‐1930年代・アメリカ』F・L・アレン著 藤久ミネ訳 ちくま文庫
 
『オンリー・イエスタデイ』の続編です。1929年の世界大恐慌から1939年の第二次世界大戦前夜までのアメリカについて書かれた本です。
 ルーズヴェルト大統領のニューディール政策・労働争議・エンパイアステートビル・商業デザインの発展・「ライフ」の創刊とジャーナリズムなどなど、どん底の景気からアメリカが何とかはい上がっていく様子が生々しく描写されています。
 この本自体が1939年に書かれています。そう言った生々しさが入っています、同時にこの時代に書かれた割には冷静な見方をしているのも事実です。
『オンリー・イエスタデイ』と同時に読まれることをお勧めします。
 (01.04.20新規)

アメリカ20年代を象徴する大きな出来事に「禁酒法」があります。江戸時代の「生類憐れみの礼」に近いものがある珍法です。
講談社現代新書『禁酒法=「酒のない社会」の実験』岡本勝著 講談社
 「高貴な理想」である「禁酒法」の光と闇について、代々酒屋の跡継ぎさんが書いた本です。
 今から考えても「禁酒法」って変な法律ですよね、私自身は酒が飲めない人間なので「禁酒法」があってもなくても関係ないのですが、とんでもない法律です。酒の販売、製造を禁止する法律なのですから。
 でも、結局のところ「ざる法」なんでよね。密造酒は横行し(これがギャング達の最高の資金源となりアル・カポネ達が成り上がったのです)、医療用の名の元でアルコールは出回り、庶民はブドウ・ジュースを買い込んで発酵させワインを作り続けたのです。警察も一部の熱心な人々をのぞいて真剣な取締りなんかしてなかったんです。
 しかし、忘れていけないことがあります。アメリカ人は時として理想のためには、とんでもない法律を作ること。現在でいえば「禁煙法」なんかが、いつ成立してもおかしくありません。(これも私には関係のない事ですが、日本でも成立した某法の強力な奴なんかは、困ったものです)
 そして現在でも「禁酒法」を支持している理想主義者の人達がいること。
(まぁ、アメリカには進化論を完全に否定する人や、地球が平らだと思ってる人、全面核戦争が「最後の審判」だと思って待ってる人達すらいるのですから・・・よく考えれば日本人もいえないか)
 そういう意味でも、面白い本です。

 次は日本の1920年代についての本を紹介しましょう。
『1920年代日本展 都市と造形のモンタージュ』兵庫県立近代美術館
 日本の1920年代美術について最もまとまった本です。
 絵画・音楽・写真・建築・機械・都市モダニズム等々、美術に関することは、ほとんど全て網羅しいています。
 他にも演劇・グラフィックデザイン・船舶内部偽装・刺繍も網羅。
 私が、この本で好きなのは1920年代の写真。野島康三・福原信三・中山岩太・安井仲治・梅阪鶯里・木村伊兵衛・ハナヤ勘兵衛、綺羅星のごとく並ぶ名写真家達のモノクロ写真・・・いいです。特に私のお薦めは中山岩太とハナヤ勘兵衛(芦屋写真倶楽部)、本当にいいです。
 この展覧会の図録は単なる図録ではなく解説文や資料(巻尾の人名紹介は壮観)も充実しており完成度の高い本になっています。
(その分、厚くて重いのは仕方がないです)

現代思想1993年7月号特集『日本の1920年代』 青土社
 日本の1920年代についての解説本、内容はヘビーです。それでは内容を・・・。
 「不可分な場の曲線群‐一九二〇年代日本絵画の意外さ」中村英樹
 「運動会という近代‐祝祭の政治学」吉見俊哉
 「牧人=司祭としての今和次郎」柿本昭人
 「女の病、男の病‐ジェンダーとセクシュアリティをめぐる“フーコーの変奏”」川村邦光
 「恋愛と性欲の第三帝国‐通俗的性欲学の時代1」古川誠
 「文明国家と癩者の存在‐大正期における救癩事業の展開について」澤野雅樹
 「生理学的哲学史展望」小林昌廣
 「〈二〇年代・日本・優生学〉の一局面」斎藤光
 「「支那学」の成立」子安宣邦
 「コンキスタドールの「征服国家」‐「日本・文化人類学」の発生」村井紀
 「ポスト植民地主義と日本の言語学的状況‐宗主語と隷属語」石剛
 「従軍建築史家たちの夢‐大東亜建築史序説」村松伸
 「大正・昭和思想史の「失われた環」‐土田杏村とその時代1」清水太郎
 「騒乱の歓喜/飽満する痛苦‐折口信夫の一九二〇年代」櫻井進
 「日本語系統学・方言周囲論・オリエンタリズム」鈴木広光
 「歴史家の言説とネイティヴィズム」H・ハルトゥーニアン
 「歴史のメタフィジックス」多木浩二・富山太佳夫
 以上のように非常に重厚の内容です。ちょっと高度な内容を欲する人には良いかも知れません。
 (01.03.10新規)

『モダン都市文学』シリーズ 海野弘・川本三郎・鈴木貞美責任編集
 1920年代〜30年代初頭の日本文学を知るのに一番のシリーズです。送呈の美しい全10巻です。
 それでは、1巻ずつ解説していきましょう。
第汪ェ『モダン東京案内』海野弘編
 題名の通り20年代の東京を舞台にした小説・随筆・ルポ・座談会をぎっしりと詰め込んだ1冊です。
第巻『モダンガールの誘惑』鈴木貞美編
 20年代はモダンガール即ちモガの時代だったのです。断髪に真っ赤な口紅・洋装・社会進出、日本の女性が社会に進出しだした最初の時代の文章たち。
 ちなみに、私の死んだ祖母はモガになりたかったそうですが、祖父の反対で出来なかったそうです。その話を小さい頃によく聞かされていた自分にとっては興味深い文章たちでした。
第。巻『都市の周縁』川本三郎編
 第汪ェ『モダン東京案内』が明るい部分であるとしたら、この巻は闇の部分を描き出しています。
 路地裏・場末・私娼窟・スラム・・・光のある部分には必ず闇があるのです。それはそこで惹かれるモノがあるのです。
第「巻『都市の幻想』鈴木貞美編
 近代社会は合理主義を生み出していく。しかし、その裏で幻想が生まれるのだ。
 錯覚・虚妄・幻想・メルヘン・・・古典的SFの宝庫の1冊でもあります。古典的SFや幻想小説の大家たちの作品も読める1冊です。こんな人がこんな作品を書いていたのかと感心するモノもあります。
第」巻『観光と乗物』川本三郎編
 20年代から近代的な乗物の普及が一気に始まりました。それに伴って観光も一気に盛んになっていくのでした(日本人の旅行好きは今に始まったわけではなく江戸時代から盛んでしたが)。
 乗用車・特急列車・地下鉄・汽船・飛行機・飛行船・・・人々は乗物に興味を持ちながら恐怖を覚えたのでした。その様子が文章を見ていると、良く判ります。たまには、滑稽だったりもしますが・・・そこも良い所です。
第、巻『機械のメトロポリス』海野弘編
 モダン都市は即ち近代科学都市なのです。大多数の人々は機械によって文明が進化し人生がバラ色になると信じていたのです。しかし、もちろん闇の部分(非人間的世界)もあります。
 機械・ロボット・映画・イルミネーション・・・マシン・エージの光と闇を描き出した1冊です。
第・巻『犯罪都市』川本三郎編
 都市が文明化すると、増えるのが犯罪。特に時代の変革点には奇々怪々な事件が起こるのです。
 殺人・猟奇・謎・謀略・・・20年代のグロの部分を描き出した1冊です。
第ヲ巻『プロレタリア群像』鈴木貞美編
 20年代の社会矛盾と社会主義の流入は人々(特に虐げられた人々達)を労働運動に走らせました。文学にもプロレタリア文学というジャンルを誕生させました。
 階級闘争・搾取・ストライキ・小作争議・・・20年代の最も深い闇を描き出した1冊です。
第ァ巻『異国都市物語』海野弘編
 20年代から海外旅行が本格的に始まったと言ってもいいでしょう(それまでのは、冒険に近かったのです)。
 巴里・倫敦・紐育・伯林・上海・・・海外のモダン都市を軽快な文体で紹介した1冊です。
第ィ巻『都市の詩集』鈴木貞美編
 20年代から30年代初頭の詩の集大成です。分野はさまざまですが、面白い内容の1冊です。
 全巻通じて読破すると黄金の20年代の日本(それを引きずる30年代初期)の空気がはっきり判ります。
 全巻並べると大変美しいです。モダニズムなデザインの装幀が本を引き立ててくれます。

『昭和二万日の全記録(1)昭和への期待』 講談社
 1920年代の日本について、もっと細かく知りたいとするならばこの本をお薦めします。(但し1923〜1926年は簡易に書かれています。1922年以前は省略)。この本では1926年(昭和元年)〜1928年(昭和3年)に関しては毎日何が起こったか書かれています。主要都市の天気まで書かれています(札幌・新潟・東京・大阪・福岡)。
 では、この期間に起きた出来事や話題を幾つかピックアップしておきましょう・・・新帝誕生・円タク・円本・金融恐慌・岩波文庫創刊・女工哀史・労働争議・地下鉄開通・男子普通選挙権・三一五事件・満州某重大事件・ラジオ体操誕生・即位大礼などなどです、もちろん、もっと細かい事象も載っていますので楽しいです。

『昭和二万日の全記録(2)大陸にあがる戦火』 講談社
 上記の本の続巻で1929(昭和4年)〜1931年(昭和6年)について日々の記録がつづられています。
 では、この期間での主な出来事を書いておきましょう・・・エロ・グロ・ナンセンス・大学は出たけれど・ツェッペリン号来日・世界大恐慌始まる・ロンドン海軍軍縮条約・特急つばめ・左翼運動・のらくろと黄金バット・満州事変・煙突男・大量失業時代・金解禁・疑獄事件などなどです。

『東京に暮す‐1928〜1936』キャサリン・サムソン著 大久保美春訳 岩波文庫
 では実際に1920年代に東京の人々はどういう生活をしていたのでしょう。当時、東京に暮らしていた英国外交官の妻キャサリン・サムソンが事細かく人間観察した記録です。
 日本人の食・労働・伝統・礼儀作法・娯楽・旅に始まり百貨店での人間観察・庭師との会話などしっかり記録してあります。例えば日本人がイギリス人と同じぐらい庭の手入れに気を使っているとか、正座が苦痛だとか、おばさんは電車の椅子の透き間に無理矢理入り込むとか(これは今でも変わってない)とか筆者の目はありとあらゆる所に向けられています。
 特に筆者は日本人に対して好感を持っているので読んでて不快感がありません(時折鋭い指摘がありますが)。ちょっと1920年代からずれるところがありますが気になりません。
 (01.07.31新規)

『テキストのモダン都市』和田博文著 風媒社
 都市は迷宮であります、そして物語を演出いたします。
 郊外住宅・アパート・電車・円タク・デパート・カフェー・放送局・ダンスホールといったキーワードを元に1920年代から1930年代のテキストを読み解いていく作品。
 人々を引きつける1920年代の理由を多くのテキストの引用から風景を描き出していきます。
 図版も多数であります。面白い一冊。
 (03.09.27新規)

『空中制服』加賀豊彦著 教養文庫(現代絶版、出版社も倒産)
 1922年の社会風刺SFであります。
 まず作家の解説です。作者の加賀豊彦は日本最初の生活協同組合(灘神戸生協ですね)を作ったキリスト教徒であります。
 話の内容は大阪が「煙の都」と言われた当時のお話です。あまりの煙のひどさに加賀豊彦は大阪市長になり煙害防止を訴えます、それに応援演説に来たのが太閤豊臣秀吉というトンデモ作品・・・といっても内容の深いところでは真面目な社会風刺であります、この作品自体が新聞に連載されていたこと自体が1920年代のある程度の自由さを現していると思います。
 興味のある方は読まれてはいかがでしょうか。
 (03.01.05新規)

『モダニズム出版社の光芒‐一九二〇年代』小野高裕・西村美香・明尾圭造著 淡交社
 1920年代に関西を中心に編集・発行された雑誌に『女性』『苦楽』『演劇・映画』があります、それを発行していたのがプラトン社という出版社です。親会社は化粧品会社の中山太陽堂(現在のクラブコスメチック)であります。
 これらの出版物は当時の最先端の流行作家を取り入れただけでなく、デザイン的にもアール・デコ様式を大胆に取り入れたおしゃれな雑誌でした。特に山六郎・山名文夫の二人のデザイナーのデザインには見るべきものがあります。また編集長である松阪清渓の評伝も詳しいです。
 1920年代に生まれ消えていった出版社について細かく書かれた一冊です。
 (03.12.16新規)

『新版大東京案内』今和次郎編纂 ちくま学芸文庫
 上下2冊組です。
 1929年に発行された当時の大東京案内の書の現代復刻版であります。とにかく編纂は「考現学」の発案者である今和次郎であります、と言うことは些細なことまで調べ上げてあります。もちろん東京の良い所だけではありません、盛り場から花柳街、貧民窟まで全てを語っているといって良いでしょう。とても興味深い一冊です。
 当時の本に載っていた広告も、そのまま載っているので興味深いです。
 (04.01.28新規)

『マンガ誕生‐大正デモクラシーからの出発』清水勲著 吉川弘文館歴史文化ライブラリー
 時代的には1920年代とは少しずれる時期も入ってますが、ここで紹介いたします。
 世界に類を見ない形で発展した「日本マンガ文化」が生まれたのは大正デモクラシーであるというのが本書の要旨であります。最初は1コマの風刺マンガであったのが、この時期から4コマに、そしてストーリーマンガに変化していくのであります。本書の基本的内容は、その基本である1コマ風刺マンガと作者、社会的背景について細かく記されています。
 当時の1コママンガも多数、挿入されていますので参考になります。
 (04.03.02新規)

『消えたモダン東京』内田青蔵著 河出書房新社
 モボ・モガが銀ブラを楽しんでいた大正末期〜昭和初期(すなわち1920年代)に新しい様式の住宅が誕生しました・・・それが「文化住宅」であり「同潤会アパート」であります。都市と郊外と勧工場があらわれた時代に郊外には「文化住宅」と言われる新型住居、赤瓦の屋根に白い壁、机と椅子の生活・・・当時最もモダンであった住宅を写真・図版多数で解説する一冊です。
 紹介されているのは基本的に東京中心です(文化住宅の最初は阪神間であるという考え方もある)。
 (04.05.11新規)

『妊娠するロボット‐1920年代の科学と幻想』吉田司雄・奥山文幸・中沢弥・松中正子・會津信吾・一柳廣考・安田考著 春風社
 1920年代はロボット時代の始まりでありました。カレル・チャペックの『R.U.R』や映画『メトロポリス』が公開されたのがこの時代です、二つの作品はすぐに日本に輸入され大きな影響を与えたのです。与えた影響を各作者が分析した作品であります。吉田司雄『妊娠するロボット』ではロボットと生殖論について(ロボットは子供を産めない、産児制限、ホモセクシャルなど)。奥山文幸『アンドロイドは銀河鉄道の夢を見る
』ではロボットが宮沢賢治作品に与えた影響。中沢弥『帝都復興の花嫁たち』では浅草十二階、浅草紅団、都市の下層社会について。松中正子&會津信吾『メトロポリス伝説‐または帝都映画戦』では映画『メトロポリス』の公開時の騒動について。一柳廣考『霊界からの声』では放送局の霊現象、エーテル、心霊、テレパシーなどとテクノロジーの関係を。安田考『女が女を愛する時』では谷崎潤一郎作品や女学生の百合的行為、生殖論を論じています。
 どの論文も新しい切り口で1920年代を論じている1冊です。
 (04.09.22新規)

『大正デモクラフィ‐歴史人口学で見た狭間の時代』速水融・小嶋美代子著 文春新書
 大正時代は15年の短い時代でした。その時代を人口学で読み解く1冊(デモクラフィ←人口学、デモクラシィの誤記ではありません)。大正時代は短いながらも人口の増減の大きい時代でありました・・・平時の日本で最も多くの死者を出したスペイン風邪の流行、電灯の普及による夜間活動の活発化による出生率の低下、成人の識字率のほぼ100%達成、女工哀史と結核の流行の関係、「早生まれ症候群」、都市部と農村部との特殊合計出生率の比較、なぜか多い大阪市の私生児、初めての国勢調査・・・などを各種統計から読み解いていった労作・・・たった15年で人口は動くものだと知らせてくれる1冊であります。
 (04.10.31新規)

『関東大震災‐消防・医療・ボランティアから検証する』鈴木淳著 ちくま新書
 1920年代日本最大の天災である関東大震災(1923年9月1日)について新しい切り口で述べた本であります。10万人を越える死者と莫大な被害を与えた関東大震災を当時の防災体制・火災対策・周囲からの応援・医療体制・震災ボランティア・流言・自警団などの項目で分析しています。地震による水道の壊滅やガソリン不足でせっかく導入された最新型の消防車が動かなかったことや神田和泉町自衛団が火災を防いだ話、せっかくの救護活動(ボランティア)を行政が持て余したことなどなど、現在の地震防災体制にとっても学ぶことが多い関東大震災について多角的に記録した良い本であります。
 (05.03.10新規)

『大正・昭和の風俗批評と社会探訪‐村嶋歸之著作選集(第1巻)カフェー考現学』津金澤聰廣・土屋礼子編 柏書房
 1931年に書かれた『カフェー考現学』1929年に書かれた『歓楽の王宮カフェー』同じく1929年に書かれた『大阪カフェー弾圧史』の3作品を収録しています。『カフェー考現学』では大阪の歓楽街を中心に考現学を実施、カフェだけではなく映画館や芝居小屋の状況、神戸新開地や銀座の様子、谷崎潤一郎・森戸辰男のコメントなど皮肉や苦言を呈しながらも、ただ感情的でなくきっちりとした数字に基づいた庶民文化の記録であります。『歓楽の王宮カフェー』ではカフェーで働く女性の実態を細かく調べ上げた作品、働いている女性の多くが生活のために働いていること、実は所帯持ちが多いことなどカフェーの女性たちの置かれた状況がよく判る作品。『大阪カフェー弾圧史』ではカフェーと警察の関係史、そこには弾圧と、その隙間をぬって営業する人々のたくましさが描かれています(大阪のカフェーの弾圧要求が商工会議所から出たこと、その理由がある会社の社長の「息子がカフェーに入れあげて困るから」と言うところでは思わず苦笑い)。3作品は同じテーマを扱っているので重複するところがありますが読み応えのある作品です。
 (05.04.13新規)
『大正・昭和の風俗批評と社会探訪‐村嶋歸之著作選集(第2巻)盛り場と不良少年少女』津金澤聰廣・土屋礼子編 柏書房
 1922年に書かれた『わが新開地』を中心に当時の若者文化を顕微鏡的に観察した文章を収録した第2巻。当時、新開地は神戸で一番の盛り場(1950年代まで、現在は余り元気がない。盛り場の中心は三宮に移動している)、そこに集まる不良少年・不良少女を考現学的視覚で調査、少年少女達の転落の理由をえぐり出している(当時の転落の第1原因はやっぱり貧困であるが裕福な家庭の子供達も不良化も見逃していない)。調査の中で当時の風俗もきめ細かく記録されているので当時の盛り場の様子もよく判る。映画が青年達に与える影響を重視している(どの時代も最先端のメディアが叩かれるのはお約束のようである)。
 (05.07.03新規)

『アインシュタイン・ショック』金子務著 岩波現代文庫
 上下2冊の文庫本です。
 大正11年(1922年)相対性理論で有名なアインシュタイン博士が来日しました、日本では各地で大騒ぎになりました。上巻では来日にいたるまでのいきさつと来日時の日本での大騒ぎの様子を、下巻ではアインシュタイン来日が日本に与えた影響と原爆日本投下に関するアインシュタインの心理状態について書かれています。相対性理論という当時最先端で最も難しい理論が何故、日本で人気になったのか?綿密な調査で解き明かしていきます。また下巻では各界の人々に与えた影響を読み解いています、とにかく多くの人々に影響を与えています・・・科学者はもちろん日本での生協の創設者賀川豊彦、新渡戸稲造、江戸川乱歩、横光利一など相対性理論とは一件関係なさそうな人まで影響を受けているのです。とにかく大正時代の大事件だったことがよく判る作品です。
 (05.06.02新規)

芸術新潮2004年7月号『ロシア絵本のすばらしき世界』沼辺信一解説 新潮社
 「ロシア革命の最大の成果とは?」「それは絵本です」で始まる1920〜30年代ロシア全土を、そして世界を驚嘆させたロシア絵本についての解説。はっきり言って普通の絵本ではありません、「前衛」です。レーベジェフやコナシェーヴィチ、タンビ、チャルーシン、シュテレンベルク、ツェハノフスキー、タトリンなどのアヴァンギャルドな作家達が次々に絵本を制作したのです。それは単に子ども向け絵本として片づけられない素晴らしい内容だったのです、それは国境を越えフランスやイギリス、日本にも影響を与えました。スターリン粛正が始まるまでの旧ソ連・ロシアン・アヴァンギャルドの粋がここに結集されています。
 内容も図版多数、解説も判りやすく良い特集です。
 (04.08.10新規)

『悪魔物語・運命の卵』ブルガーコフ著/水野忠夫訳 岩波文庫
 両作品とも1920年代に書かれたSF作品。
 『悪魔物語』は舞台が1920年代のモスクワ、事務員コロトコフは自分の分身に翻弄され訳の判らない事態に陥っていく様子を描いた作品。『運命の卵』は動物学者が発見した謎の光線(両生類学者は生命を異常繁殖させてしまう特殊な光線を分離させてしまったのだ)によって引き起こされるパニックを描いております。
 いかにも前時代的SF感があって、良い感じの作品です。
 (04.01.24新規)

『パリ点描 1925−1939』ジャネット・フラナー著/吉岡晶子訳 講談社学術文庫
 20年代中盤から30年代末(ナチスドイツ軍フランス侵攻直前まで)のフランス・パリを米雑誌『ニューヨーカー』の女性特派員がリポートした記事をまとめた1冊。シュールレアリズム全盛期、多くの芸術家(ジョイス、コクトー、ピカソ、モネ等々)が活躍したパリからリアルタイムで文学・演劇・舞踏会から政治・事件・スキャンダルまでレポートしています。レポートの内容は簡潔明瞭(そして辛辣)でありますが当時のパリの空気を知るには良い1冊(日本にはなじみのない事件や人物も出てきますが、それはそれで勉強になります)。
 (08.03.07新規)

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