「兄君、髪の毛が背中に付いているよ」
彼女はいつも突然現れる。
「取ってあげる」
「ありがとう」
「礼などいらない」
彼女は兄君の前を無表情のまま通り過ぎた。
「いつも、突然現れるんだから・・・千影ちゃんは」
12人+1人の妹を持つ身になった兄は彼女の行動を理解できなかった。
それぞれの妹たちは皆、個性的でかわいかった。
そして、不思議な程、仲良く過ごしていたのだ。
しかし、彼女だけはみんなから少し距離を置いていた。
時には部屋にこもり、時には外で空を見上げ空中の見えない誰かと会話していた。
そんな、彼女でさえ他の妹達は仲間はずれにすることなく生活をしていた。
「これで13本」
彼女は自分の部屋に戻り兄の毛を小さな小瓶に入れ、コルクで栓をした。
「兄君は覚えてくれているのだろうか?」
・・・前世の記憶。
・・・二人で居た時間。
・・・「君を守る」と言った約束。
「前世では守り切れなかった約束」
・・・失敗。
「幽体離脱」
・・・あの時、兄を自分の手に出来たならば。
・・・後悔。
「やはり」
・・・実行すべきなのか。
蝋燭の炎が彼女のかすかな呼吸の乱れを感じている。
「複製」
ふと彼女の脳裏をよぎった言葉。
兄を独占したいという欲望。
今のままでは12+1人の兄のまま。
自分は1/13の存在。
古くいぶしのかかった本棚から彼女は一冊の本を取りだした。
『錬金術の理論と実践』
革張りで羊皮紙に書かれた書物。
彼女は軽く埃を払った。
「兄君の複製」
「私の複製」
本の上に手を置き胸に下がる十字架を見ながら彼女は考えた。
「四六時中、私たちは二人きりになれない」
・・・前世で約束したのに。
「ならば、せめて複製の分身でも」
・・・自分の分身を兄君の元へ。
・・・兄君の分身を自分の元へ。
「ホムンクルス・・・」
小型の人工分身を作成する方法。
『・・・を40日間、蒸留器に密閉せよ。生きて動き始めるまで腐敗せしめよ。見れば直ちに判ることである。この期間を過ぎると人の形をした透明でほとんど非実質的な物の姿があらわれるであろう。しかるのち生まれたこの物を毎日、人間の血で慎重且つ細心に養い、且つ馬の胎内と同じ温度のまま40週間保存すれば、それは本物の生きた子供となる。ただずっと小さいだけだ』
「人の血は私の物で良い、・・・か、これが手にはいるならば苦労をしない」
しかし、彼女は代用品で実験しようと思った。そのための髪の毛である。
「さて、どちらを作れば良いのだ」
水晶玉に聞いてみる。
「判らないか」
濁っている。
「カード」
手元のカードを1枚めくっている。
「白紙・・・」
予備のカードが混じっていたのだ。
「自分で決めろと言うのか」
彼女は止まってしまった。
「やはり、複製などではいけないのか」
彼女は占いの結果を解釈した。
「自分自身で運命は切り開かねばいけないのか」
・・・せめて現世でこそ。
・・・前世の約束を果たすのには。
・・・兄と結ばれるのは。
彼女は窓を開けて星空を眺めた。
完。