エネミー・ゼロ |
「眠い」というレビューを読んだ瞬間から、私の『エネミー・ゼロ』(以下“E0”)への期待はぱんぱんに膨れ上がり、気がつけばゲーム屋さんへすっ飛んでいました。どこか間違った動機ですが、とにかく本体95円・攻略本100円で購入して帰宅。
長期航行中の宇宙船の自室でコールドスリープ中だった乗組員の一人=主人公ローラが、マザーコンピュータに叩き起こされ、艦内に侵入した“見えない敵”と戦うアドベンチャーです。

ディスクの枚数が複数のゲームは、それぞれに“DISC1”“DISC2”などと書かれているものですが、E0には、OPムービー・練習モード・スタッフ紹介が入っている“DISC0”が存在します。
それ見て思ったんですが……グラフィックも音楽も構成センスも、めっちゃ美麗で洗練されていてお洒落。OPムービーのしょっぱなで、多分「コールドスリープから目覚めさせられた瞬間の表情」なのだろうが「コントでの驚きの表情」に見えてしまうギャグ顔ローラが4回も繰り返されるのだけ見なかったことにすれば、これほどのムービーは当時のSSには類を見なかったのではないでしょうか。スタッフ紹介も、スタッフロール以外でこんなにスタッフが露出しているゲームは他にないのだけ見なかったことにすれば、「何もそこまでせんでも」なほどの渋いカッコ良さです。攻略本を開いてみても、ストーリーやシステムなんかはぞくぞくするほど斬新で面白そうに見えました。
では、練習モードを立ち上げてみましょう。
難易度は3段階。レトロでありながら逆に新しい印象の3Dダンジョンで、それを上から見たマップもついています。いずれの難易度も、敵をエネルギー銃で倒せばクリアです。
1.敵は、姿が見える・マップにも表示される・1体である。
2.敵は、姿が見えない・マップには表示される・1体である。
3.敵は、姿が見えない・マップにも表示されない・3体である。
……すいません2と3の間に激悪なレベル差があるのは何故ですか。すぐ死ぬんですけど。
何故か突然、清水義範氏の、“機械類のぶっといマニュアルはどうして分かりにくいか”という主旨の文章の一節のアレンジで頭がいっぱいになりました。
1.コンセントを差します。
2.電源を入れます。
3.アプリケーションをインストールします。インストール後のハードディスク(Cドライブ)に最低100MB以上の充分な空き容量が必要です。
パソコンに初めて触れるひとがこんなん読んだ時みたいな段階無視仕様で、いたずらに動揺を誘います。中間はないのか中間は。
“見えない敵”をどうやって撃つのかといえば、敵の位置を音で知るわけです。「敵の位置が自分から見てどの方向か」で音の高低が、「敵との距離がどれくらいか」で音の間隔が違ってくる、という非常に画期的な発想です。しかしこの音、
「♪ピコーン……ピコーン……ピコーンピコーンピコンピコンピコンピコピコピコピ」
と鳴りまくるので、しまいには耳鳴りを引き起こします。“見えない敵”ってこの激しい頭痛のことなんですか?
しかも、銃には変な“溜め”があります。銃を構えるとエネルギー充填開始で、敵が適切な位置に来たら発砲。このこと自体は、SFの世界観におけるリアルさ(って表現も矛盾しているがそうとしか言いようがない)を感じさせられます。が、充填し過ぎると撃てない・仕留め損ねたら充填が間に合わないので逃げるしかない・敵が見えないのでそもそも“適切な位置”が分からない、の三重苦。音だけが頼りのバトルには結構キツいです。
いつまでも練習モードのレベル3がクリアできないので、実戦で慣れようと思い、無謀にもDISC1に入れ替えてみました。

プレイヤーは、ローラの視点で、当時の水準としては非常に完成されたグラフィックの艦内を歩き回ることになります。同時期に発売されたSSの代表作が『エアーズアドベンチャー』であることを考えれば、これは驚異的なことです。
目覚めたものの意識が朦朧としており、ところどころ思い出せない事柄があるローラ。しかし、同僚が“見えない敵”に惨殺されたことを知り、まずは自室で役立ちそうなアイテムを集めてから通路に出ることにします。
ここで私は初めて、レビューでの「眠い」という言葉の真意を悟りました。
最近になって浸透してきた表現に、「寒い」「痛い」「眠い」等がありますよね。白けること=寒い、いたたまれないこと=痛い、というような。で、「眠い」も、何寝惚けたこと言ってやがんだてめぇ=眠い、の意で使われているのかと思っていたのです。まさかその「眠い」が、本来の語意通り眠くなることを指していたとは。
一つ一つの動作が非常に緩慢。アイテム一つ入手するのにも、ある場所を調べて収穫があってもなくても、「何をどうしてどうなったのか」のメッセージ類が一切表示されないので、ローラの緩慢な無声演技だけで状況判断しなければなりません。主人公が喋ることによってプレイヤーの感情移入が殺がれたり、如何にもゲームっぽいメッセージを出すことによって“映画的な表現美”が損なわれたり、ってのを避けようとしたんだろうなぁ、とは思います。思いはしますが、ゲームとしては眠くなります。
乗組員の私室に設置されている端末で見ることができる情報画面も、緻密に作り込まれていてスゴいなぁとは思います。思いはしますが、やはり何故か眠くなります。
この時期の私は重度の不眠症で、「眠いのに眠れない」状態が続いており、お香を焚くとかお茶に凝るとか六法全書を読むとかで何とか眠ろうとしてみてもダメでした。それが、E0のおかげで「眠くないのに眠ってしまう」ようになり、一発で治りました。「何をしても治らなかった病気がこのキノコ粉末で治りました!」みたいなチラシによくある“喜びの声”の投書に似た感謝を覚えます。
しかし、全てを映像と音楽だけで演出しようとした意欲は素晴らしいしそれに見合った仕上がりなのに、何故にこんなに眠いのでしょう? しばし考えてみました。
【結論】これ、もし映画だったらスゴい名作になってたんじゃないかなぁ?
でも、映画には“プレイヤーによる操作”が介在しないので、社長・飯野賢治氏が提唱する「“我思う、故に我在り”をプレイヤーが体感する」ことはできない。
でも、“プレイヤーによる操作”を入れると、途端に眠くなってしまう。
でも、眠い要素を取っ払ったら、映画になってしまう。
でも、映画には(以下ループ)
ここに、飯野氏が提唱するゲームの在りかたの根源的な矛盾が出てしまったのでしょうね悲しいことに。

更に、セーブ回数が限られていることも、E0クリアを難しくしています。といっても、同じくセーブ回数に制限がある『バイオハザード』があれほどブレイクしたからには、E0のツラさがその点だけにあるというわけではないのでしょう。私がまだ純真な公務員だった頃、税金部署に、バイハのマップを全部覚えている強者なおぢさんがいたので、E0も模範プレイしてもらおうと思って無理矢理やらせてみました。が、やはり寝てしまいました。
というわけで、もともとアクション系が苦手な上に寝てしまうことが多く、私のローラはまだイージーモードでDISC1を彷徨っています。私の寿命までにはDISC3に到達できるでしょうか。

