アルスノバとマショー
トゥルネーのミサ
| アルス・ノバ(Ars Nova)、すなわち新音楽とは14世紀前半の作曲家ヴィトリの音楽理論書(1325年頃)の題名に基づいた14世紀のフランス音楽を示す言葉です。 その理論書は新しい記譜法について書かれているのですが、この記譜法によってそれまでの音楽が大きな自由度を獲得して、新しい音楽様式を産む事になりました。それまでの音楽はアルス・ノバに対してしてアルス・アンティカ(Ars Antiqua)すなわち古い音楽と呼ばれます。 アルス・ノバはヴィトリに始まり、マショーで集大成されるのですが、アルス・ノバ初期の作品に作者不詳の「トゥルネーのミサ」があります。これは音楽史では世界最初のミサとして知られています。 それまでのミサはキリエ、グロリアなどばらばらには存在していたのですがこの「トゥルネーのミサ」はキリエから始まり、アニュス・デイまでの5つの章および、結びのイテ・ミサ・エストまで1つにまとまった多声ミサとしては最初のものと言えます。(北フランスのトゥルネー大聖堂図書館に保存されていた写本による音楽なのでそう呼ばれます) この作品はアルス・ノバとアルス・アンティカの様式が混ざり合っていて、キリエ、サンクトゥス−ベネディクトゥス、アニュス・デイはアルス・アンティカの様式で、グローリア、クレド、イテ・ミサ・エストはアルス・ノバの様式で書かれています。 さらにイテ・ミサ・エストはモテットの形式をとっていてテノール部はグレゴリオ聖歌を一定の周期で歌い、中間部はラテン語で神の慈悲を乞う歌を、上声部は愛の歌をフランス語で歌うという複雑な構成になっています。 このように様式も時代も(したがって作曲家も)異なるそれぞれの章を集めてきたのがこの「トゥルネーのミサ」ですが、聴いていて違和感のないのが不思議な所です。むしろこうした章によってスタイルが違っている事が不思議な調和と新鮮さを感じさせてくれます。また非常に美しい曲です。(編纂者もその辺りの調和と効果を狙って選曲したのでしょう) 世界最初のミサ曲というふれこみで音楽史で語られる曲ですが、同じ世界最初でもマショーのミサ(こちらは世界最初の一人の作曲家の作ったミサです)に比べてあまりにもマイナーというか、非常にCDの少ないのが残念です。 |
Missa Tournai/Motets |
Capella Antiqua Munchen directed Konrad Ruhland/ Telefunken SL7006(LP) |
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私の古楽趣味はこの曲から始まったと言っても良いでしょう。 すいぶん昔、中学か高校の時にNHK−FMでこの曲を聞いてあまりの素晴らしさに感動した事を覚えています。 しかし悲しいかな録音していなかったので、その後この曲のレコードを求めて(その頃はまだCDはありませんでした)レコード店を回ったものでした。 結局この曲の録音が手に入ったのはそれからはるか先の学生時代の事で、このLPは表面にトゥルネーのミサ、裏面に作者不詳のモテットが3曲、ヴィトリのモテットが5曲入っています。 器楽を交えていて今聴くとどちらかと言うとニューエイジ風に聞こえます。 今から20年以上前の録音なのに古さは感じさせません。 今聴いても、初めて聴いた当時の新鮮な感動が蘇ってきます。私の宝物の一つです。 |
Messe Tournai |
Marcel Peres,Ensemble Organum/Harmonia Mundi HMA |
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今日ではこちらの方が標準的な演奏になっているのでしょうか。 器楽を交えずにアカペラで演奏されます。このCDではミサの通常文(キリエ〜イテ・ミサ・エスト)に加えて当時歌われていたであろう聖歌などを交えて「聖母マリア祝典」のミサの形をとっています。 上のカペラ・アンティカ盤を聴くとこの演奏は多少”異様”に聞こえます。これがアンサブル・オルガヌムの特徴と言えばそうですし、当時(14世紀)にはあまり和音という考えがなかったのを考えればこちらの演奏のほうが理に叶っているのかも知れません。そのつもりで聴けばなかなか味のある演奏ですね。 このCDも数少ないトゥルネーミサ盤として貴重なものの1枚です。 (最近女性演奏グループのトリオ・メディーヴァルが「天使のことば(トゥルネーのミサ)」ECM UCCE-2014 というCDを出していますが、これもアンサンブル・オルガヌム系の演奏と言って良いでしょう) |
ギヨーム・ド・マショー
| ギヨーム・ド・マショーは14世紀最大の作曲家であると同時にアルス・ノバの代表的な作曲家として知られています。本職は聖職者で、詩人でもあり王侯貴族に仕えて政治家としても活躍した才人でもありました。 その当時としてはめずらしく自分の音楽全集を写本という形で数多く残しており、そのおかげで彼の業績を今日においても詳しく知る事ができます(要するに目立ちたがり屋だったという事ですね) マショーの有名なエピソードとして晩年60歳を越えた頃に若いペロンヌ嬢(18歳といわれている)との恋物語があります。これはマショーの詩集「真実の物語」(Le Voir Dit)に書かれているものです。いつまでも若い心を失わないエネルギッシュな人だったのですね。 マショーの作品としてはバラード、ロンドー、ヴィルレー、レーなどの世俗曲(シャンソン)と共に「聖母のミサ曲」(ノートルダムミサ)が著名です。 これは通作ミサ(すなわち一人の作曲家によって一貫して作曲されたもの)としては史上最初という記念すべきもので、当時のアルス・ノバの技法が縦横に使われています。15世紀以降のミサ曲とはその趣が全く異なっており「異様」とも聴こえる非常に不思議な魅力のある曲です。 |
Guillaume de Machaut Le Messe de Nostre Dame Songs from Le Voir Dit |
Oxford Camerata - Jeremy Summerly,Director/NAXOS |
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ノートルダムミサ曲は6つのミサ通常文(キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス、アニュスデイ、イテ・ミサ・エスト)から成っています。 おそらく当時の演奏では声楽と器楽の合奏で行われたと推測されるのですがこのCDは声楽のみで演奏され、しかも余計な解釈や装飾をあまり加えずにストレートに演奏し、それがこの曲の「異様」さを引き立てる効果となっています。 冒頭のキリエでも楽譜の指示は3回繰り返しなのですが、同じような繰り返しで退屈するせいもありますが多くの演奏ではここを2回にしています。しかしこのオックスフォード・カメラータによる演奏は忠実に3回演奏しておりそのためにこのキリエだけで9分近くもかかっています。冒頭のキリエはイソ・リズムと呼ばれる手法で同じような旋律が形やリズムを微妙に変えながら繰り返し現れてきます。 このCDにはシャンソン「真実の物語」も収められているのですがその中でレー13番は延々と20分近く男性のソロで歌われるのですが正直退屈します。 こういう曲は現代人の感覚を超えているとは思うのですが、それを延々と歌うオックスフォード・カメラータの誠実な演奏にも感心します(笑) シャンソンの部分は代表的演奏ではないでしょうがノートルダムミサの部分はお勧めできます。 とにかく異次元世界につれていかれたような不思議な感覚になります。 |
パリ・ノートル・ダム楽派の 音楽とランス大聖堂の音楽 |
デラーコンソート/BMG(国内晩) |
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マショーのノートルダムミサとノートルダム楽派(ペロタン他)の音楽を収録しています。 このノートルダム・ミサの演奏もなつかしい演奏で、昔のラジオ録音を繰り返し聞いたものでした。私の古楽趣味の原点の曲(の一つ)です。 ノートルダムミサに関しては器楽演奏も交えているせいかも知れませんが非常に柔らかく、聴き易い演奏です。異様さもオックスフォー・カメラータの演奏に比べてあまり目立ちません。 音源は古いのですが今でも一聴の価値はあると思います。 後半のノートルダム楽派の関してはペロタンの有名な「地上のすべての国々は」(Viderunt Omnes)も収められていてマンロウやヒリヤード・アンサンブルの演奏と聞き比べてみると面白いでしょう。 |
Guillaume de Machaut Le Messe de Notre Dame |
Clemantic Consort/ARTE NOVA |
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クレマンシックコンソートの衝撃(笑劇?)のCDです。 このCDを通常のノートルダムミサのCDと思ってはいけません。これはノートルダムミサをダシにしたいわゆる企画CDと言うのが適切でしょうか・・。 すなわち大聖堂でミサが始まる、とある街の様子を音楽で表現したものと言えます。 大聖堂に行く途中にまず吟遊詩人や乞食の歌が聞こえてきて、それから大聖堂に入ってミサを聞く・・という流れなのですがもちろんその途中でも色々とその当時の音楽が聞こえてくる・・・というものです。 もちろんノートルダムミサの部分だけを取り出して(たとえばプログラム機能などによって)聴く事もできますし、それ以外の音楽でもマショーのシャンソンがけっこうたくさん入っているので興味ある人にとっては楽しめる一枚でしょう。 値段も安いので持っていて損はないと思います。 |
Guillaume de Machaut Merci ou Mort |
Ferrara Ensamble - Crawford Youngd ARCANA A305 |
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マショーの恋愛歌を集めたもので、モテット、バラード、ヴィルレー、ロンドーが全部で20曲収録されています。 このCDの特徴としてはモテットが全部で8曲収録されこのCDの雰囲気を特徴つけています。モテットを中心に曲が組み立てられ、その合間にバラード、ヴイルレー、ロンドーが歌われるという感じでしょうか・・ モテットは3つの異なった歌詞を3声部で歌うというアルス・アンティカ以来の典型的なスタイルで演奏されます。 演奏は欝な曲には抜群の雰囲気を出すフェララーアンサンブルで実に興味深く聴く事ができました。マショーのシャンソンの演奏には機械的に感情を交えずに淡々と演奏するケースが多いのですがですがここでの演奏はフェラーラアンサンブルらしい少し、曇り空の演奏と言うかやや欝に感情を込める事により良い雰囲気を出しています。もっとも歌の内容に「死」という言葉が頻繁に出てくるのでどうしてもそういう雰囲気になってしまうのでしょうが・・ 題名の「Merci ou Mort」は歌詞からとられていいます。 |
最終更新日
2002.8.25