「夕餉(ゆうげ)」は、「夕食,、晩めし」のことである。古くは一日二食だった食事回数が、平安後期から一日三食になった。だが、その内容は一汁一菜が普通だった。江戸期に入ってから一汁三菜プラス香物(漬物)が一般的になったという。一日を締めくくる夕食が一番大切だったことは、想像に難くない。たそがれの空に立ち昇る夕餉の煙は、村人たちの平和な暮らしの証しであり、「高き屋に登りて見れば煙立つ民の竈(かまど)は賑はひにけり」(『新古今集』、仁徳天皇)と為政者を安堵させたのであるー。
「晩めし」の「めし」は、「メス(召す)」が語源。「召す」は様々な意味を表わす尊敬語で、「見る、呼び出す、食べる、飲む、着る、履く、買う、乗る」のほかに、「風呂を使う、風邪をひく、気に入る」等の意味に使われてきた。「着る」意味での「お召しもの」、「乗る」意味での「お召し列車」が分かりやすい。「食べる」意味での「お召し上がりください」から「メシ(召し)」になった。
ついでながら 「茶碗」は、もとは「茶を飲むための容器」だったが、陶磁器製の容器の総称として使われ、ご飯を盛る入れ物も「茶碗」のままなのである。「碗」の字の<宛>は、(しなやかな曲線をもつもの)という意味を表わし、「椀」や「腕」とも同系の語だ。
英語で「夕食」は<dinner>と思いがちだが、ちょっと違う。<dinner>とは、一日のうちで「中心的な食事」のことであり、英語辞典にも、<dinner=the main meal of the day, eaten in the evening or in the middle of the
day>(夕方もしくは日中に摂る、その日の主たる食事)とある。一般的には「夕食」を<dinner>とすることが多く、「昼食」は<lunch>である。しかし、日曜日や祭日には、「昼食」を<dinner>(主たる食事)とし、夕方は簡単な<supper>または<tea>(ケーキやサンドイッチと紅茶)で済ます人々も多いのだ。
公式の晩餐会、「祝宴」は<dinner party>だが、<feast>や<banquet>も使われる。<feast>の語源はラテン語の<festa>(祭り)で、<festival>(祝祭、催事)と同源。<banquet>は、古イタリア語の<banchetto>(小さいテーブル)から。この語は、<bank>(堤防、銀行)や<bench>(長いす)とも同源だ。
正式ディナーはスープから始まる。<potage>(クリーム状のスープ)と <consomme>(澄んだスープ)は、ともにフランス語起源。本来の英語では<cream soup>と<clear soup>である。<soup>には「濃霧」の意もあり、「混沌、五里霧中の状態」をいう。そこから<in the soup>という表現が生まれた。「苦境に陥る、困った立場になる」という意味だ。また、<soup up>という熟語は「(車のエンジンを)改造する、(紙面を)刷新する」の意で、好みによりスープの味付けを変えるイメージである。
ディナーの最後はデザート。<dessert>(ディザート)も、フランス語の<desservir >が英語に入った。語源的には、<des(分離)+servir(給仕する)>で、「食卓を片付けること」が原義だ。慣習上、「ご馳走さまでした」に対応する英語は存在しない。しかし、招待してくれた人に対して <I really enjoyed the meal. Thank you .> などと礼を述べるのは最低のマナーだろうー。
≪夕餉≫