≪真摯≫

官庁や企業の不祥事が問題化するたびに、責任者が平身低頭して謝罪するシーンがテレビのニュースで流れる。「〜深く反省しております」、「〜まことに申しわけありませんでした」というのが常套句だが、加えて、「〈企業責任を、あるいは、判決内容を〉真摯(
しんし)に受け止めて・・・」というのが、近頃の風潮のようであるー。

不祥事の「祥」の字は<示+羊>。<示>は祭壇を、<羊>は生贄(
いけにえ)を表わし、占いで良い結果が顕(あらわ)れることに「祥」の字を充てた。そこから、「吉祥、瑞祥」などの「幸運、めでたい」という意味に使われている、という。だから 「不祥事」とは、これと反対の「不運なこと、不吉なこと」というのが本来の意味だ。もしかして関係者たちは、「運が悪かった」だけと思っているのかも知れないが。

辞典によれば「真摯」とは、「まじめで、ひたむきなさま」とある。 漢字の「摯」は、<執+手>から「手でしっかりと持つこと」が字源。「つかむ、手厚い、ゆきとどく、まこと」などを意味するそうだが、「真摯」(十分に気持が届くこと)のほかに熟語は少ない。

「ひたむき」は「直向き」と書く。これからも推測されるように、「ひたむき」の語源は、「ヒタ(まっすぐに)+ムキ(その方向に進む)⇒(物事に一途に熱中するさま)」だ。「ひた」は、「ひと(一)」とも同源で、「いちずに、ただちに、まったく」などの意を表わす接頭語。「ひた走り」、「ひた隠し」、「ひたすら」、「直謝り(
ひたあやまり)=平謝り(ひらあやまり)」などの語がある。

「真摯に受け止める」を和英辞典で見ると、<
receive sincerely>となっていた。もとの形容詞<sincere>の語源は、「完全な、純粋な」を表わすラテン語からで、「誠実な、正真正銘の」という意味だ。「シンア」と「真摯」は似ている。以前なにかの本に、(<sincere>⇒紳士や⇒真面目な)という語呂合わせの暗記法が載っていたが、(<sincere>⇒真摯や)の方がストレートだ。それにしても、「受け止める」の<receive>は如何なものか(と思う)。

<
receive>には、「よそから飛んでくるものや、与えられるものをキャッチする」という物理的行為に比重がある。卓球などでサーブされたボールを”受けて”返球する「レシーブ」である。[真摯に・・・」の持つ謙虚さに欠ける。むしろ<accept>ならば、「(承諾して)受け入れる」の含みがあるので適語ではないか。<take>(〜と解する)でもよいだろう。

<
sincere>の語源については複数説あって迷うが、その一つに、ラテン語の<sine>(〜のない)+<cera>(蝋、<wax>)からとする説がある。その解釈はこうだ。壊れた陶器類は、割れ目を蝋でふさいで磨き、傷口が分からないように隠すのが普通だ。だから、「蝋のついていない陶器」は、「完全、損なわれていない」ことの証明になる。ここから「純粋な」が<sincere>の本義なのだという。真偽の程は不明だが、専門家の学説だから真摯に受け止めるほかない。

<
sincerely>は、また、手紙の結辞で<Yours sincerely>(敬具)のように使う。米国では順序が逆で、<Sincerely yours>と書く。<Dear Mr.・・・>のように個人名で始まる手紙や商用文に用いる。<sincerely>は、通信文の中身や相手との親疎の度合いに応じて、<truly, faithfully, respectfully, cordially, gratefully>などとするが、微妙な違いは説明しにくい。

ざっくばらんで形式張らない豪州からの手紙には、<R
egards.>とだけ書いてあることが多い。「では、では・・・」といったリラックスした雰囲気だ。当方からの返信にも同様に書くので、迷わなくて済むー。