≪○×式≫
○×式、といっても現代の教育方針にケチをつけようというのではない。試験問題で複数の選択肢について正誤を判別する場合には、是とするものにマル印(○)、否とするものにバツ印(×)をつける。常識である。アンケートや商品の注文書にも、該当する項目にマル印をつける。書類に印鑑を押すときも、所定の位置に鉛筆でマル印が薄書きしてあったりするー。
ところが、外国で書類にサインを求められるときには、その個所がバツ印で示されることが多い。「○」は「正しい、可」であり、「×」は「誤り、不可」の意味だと日本では認識しているから、はじめて見たときはビックリ、文字通り「目を丸く」した。
マルバツ式がいつ頃から定着したものかは知らないが、「まる(中世までは「まろ」)」は(球形、円形の、ふっくらしたもの)が原義。もとは、中国語の「満」が「マン⇒まる」と音韻変化したものとされ、遊戯用の「まり(毬)」も同源の語だ。古い関西方言では、その形から「スッポン」のことを「まる」と称した。「欠けていない=大切なもの」の意から、刀剣や船名にも「丸」をつけた。
漢字の「丸」は、<曲線+人が身体をまるめてしゃがむ姿>から「まるいこと」が字源。「まるい」にあてる漢字は、主として立体的にまるいものに「丸」(丸い屋根、など)、平面的にまるいものには「円」(円いテーブル、など)と使い分けるのが基本だ。記号としての「○」は、完全無欠の象徴から「良い評価,、完璧さ」を示す印になったのだろう。但し、欧米では<○>にそのような意味はないので、両腕で頭上に大きな円を作っても、「丸っきり」通じない。
反対語の「バツ」は、「罰点(ばってん)」の略とされる。罰金、罰則の「罰」だ。「バツイチ」という言葉が流行ったが、「良くないこと」を示唆する差別語だ。「バツ」は、主に関西地方では、「ペケ」ともいう。この語源は、中国語の「不可(buke)」からともいわれるが、マレー語の<pergi>(駄目だ)を起源とする説もあって、はっきりしない。
「マル」と「バツ」は、英語で言えば<circle>と<cross>。動詞として使うと「円でとり囲む」と「バツ印をつける、横線で消す」の意味だ。<circle>の語源はラテン語の<circus>(輪、円)からで、綴りからも分るように<circus>(サーカス、原義は〈円形競技場〉)と同源。<circus>から派生した動詞の<circare>(ぐるぐる歩き回る)が、古フランス語の<cerchier>(調べて回る)を経て、英語の<search>(捜索する)になっている。
一方、<cross>(バツ)は、ラテン語の<crux>(十字形)が語源。キリスト教の「十字架」でもあるが、決して”神罰”という意味ではない。近ごろ人気の「クルーズ」(船旅)は英語の<cruise>からだが、これも同じラテン語源からで、オランダ語の<kruisen>(横切ってゆく)が英語化したものだった。因みに、「マルバツ式テスト」を英語では、<a true-false exam>のように表わす。
英語辞典で<x>を引くと、<a symbol used to show a vote for somebody in an election>(選挙で誰に投票したかを示すのに使う記号)とある。日本では、信任投票のバツ印は不信任の意味だ。また、<a symbol used to show that a written answer is wrong>(答案が誤りであることを示す印)ともあり、これは日本と共通する。さらに、<a mark used instead of a signature by someone who cannot write>(字の書けない人が署名の代わりに使う印)でもある。とまれ外国では、バツ印に日本のような強い否定の意味はなく、むしろ、地図上の所在を示すなど該当する個所を示したり、注意を喚起する記号として用いられている。
近頃、選択した項目を示すのに、正方形の枠(□)の中へチェック(<check>、✓印)を挿入する方式が目立って増えてきた。<check>はペルシャ語源で、「王様⇒王手⇒阻止⇒照合」へと発展した語。英国では<tick>という。チェックボックス方式は、迅速なコンピュータ処理ができるのが利点だが、長年馴染んできた「○印=善」とする日本独特の表記は捨てがたい。
いつだったか、受験予備校の広告で、「□い頭を○くする」というコピーを見たことがある。「四角い頭を丸くする⇒固い頭を柔らかく」と読ませたかったのだろう。受験勉強に限らず、固定観念に拘泥しない柔軟な姿勢は大事だ。このコピーには、迷わず「二重丸(◎)」をつけたー。